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第三話 決意、そして旅立ち①

last update Last Updated: 2025-05-21 18:06:44

 雛が屋敷へ戻ると、玄関では雄二が誰かと話しているようだった。

 客人だろうかと耳を澄ますが、声が小さくて話している内容はわからない。

 身なりや態度から、相手はどうやら武士だということがわかる。わざわざ来訪するとは何か重大なことなのだろうか。

 話は終わり客人が帰ると、神妙な顔をした雄二が手に持った紙を睨んでいる。

 その紙を持ってどこかへ向かう雄二のあとを雛は追っていった。

 すると雄二は自室へと入っていく。

 しばらくすると出てきた雄二の手に、先ほどの紙はなかった。

 雛はなんだかすごくその紙が気になって仕方がなかった。

 父が隠したということは雛の目に触れさせたくない内容なのかもしれない。

 もしくは、重要機密事項が書かれているか。

 どちらにせよ、雛の好奇心をひどくかきたてた。

 いけないことだと知りつつ、どうしても衝動を抑えきれない雛は、辺りを警戒しながら雄二の部屋へと入った。

 雄二の部屋は机と本棚しかない。

 六畳ほどの一室に、びっしりと本が並べられている。ここは書斎兼仕事部屋のようなものだった。

 雄二が何かを隠すときは、この本棚に隠すと決まっている。

 題名に雛の名前か、母の名前が入っている本に挟むことが多かった。

 雛は本の中からまず自分の名前を探ししていく……何冊目かの本でそれは見つかった。

「あった!」

 本を手に取り、パラパラと本のページをめくっていく。

 すると、先ほど雄二が持っていた紙だと思われる物が挟まっている個所を発見した。

 それを手に取った雛は、本を元あった場所へ戻す。ゆっくりと扉を開け、辺りを警戒しながらそっと部屋を出ていった。

 雛は自分の部屋へ戻ると、その紙に書かれた内容に目を通す。

『未来を切り開く若者、集まれ! 平和な世を築くため、君たちの力が必要だ』

 大きくそう書かれており、その下には詳細が記されてあった。

 平和のために、今の政権と戦う若い剣士を募集しているという内容だった。

 公家、武家、農民、商人、町人、位は問わない。破格の報奨金が褒美として貰えるとも記してある。

 その下には、集合場所と日時も書かれていた。

 雛はその紙を握り締め、雄二のもとへ向かった。

 その頃、雄二は縁側でお茶を飲みながら考えにふけていた。

 もしこのことを雛が知れば、また大騒ぎするに決まっている。

 絶対に知られてはいけない。

 小さく息を吐き、ゆっくりとお茶を飲んだ。

「父さん!」

 雄二はその声に驚いてお茶を吹き出す。

 咳き込んでいると、雛が雄二の背中をさすった。

「父さん、ごめんなさい、大声出して。大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。どうした、そんなに慌てて」

 雛が真剣な顔をして先ほどの紙を雄二に差し出した。

「お、おまえ、それ」

 雄二は驚き、雛と紙を交互に見つめる。

「ごめんなさい、勝手に父さんの部屋に入って取ってきました」

 雛は申し訳なさそうに頭を下げた。

 雄二は開いた口が塞がらず、唖然としている。

「おまえというやつは、本当にどうしようもないやつだ。

 ……しかし、私も隠したのだから、お互い様だな」

 優しく微笑む雄二だったが、すぐに真剣な表情へと変わっていく。

「読んだんだな?」

「はい」

 雛の熱い眼差しを受け、雄二は沈黙した。

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